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東京地方裁判所 平成11年(行ウ)165号 判決 2000年10月16日

原告

原告

右両名訴訟代理人弁護士

坂本兆史

被告

世田谷税務署長 本間昭平

右指定代理人

黒澤基弘

下岡守彦

軽部勝治

佐藤繁

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が原告らに対し平成九年八月二九日付けでした平成八年分所得税の各更正処分(ただし、原告乙に対する更正処分については、納付すべき税額二万〇四〇〇円を超える部分)を取り消す。

第二事案の概要

本件は、原告らが、相続により取得した土地に係る譲渡所得につき、平成六年法律第二二号による改正前の租税特別措置法三九条一項(以下「旧三九条一項」という。)の定める相続税額の取得費加算の特例を適用して平成八年分所得税の申告を行ったところ、被告から、右土地譲渡は右特例が適用されるべき期間経過後になされたものであるため、右特例の適用はないとして行われた各更正処分(ただし、原告乙に対する更正処分については、修正申告に係る納付すべき税額を超える部分)の取消しを求めている事案である。

一  法令の定め

所得税法三三条三項は、譲渡所得の金額について、総収入金額から資産の取得費、譲渡に要した費用及び特別控除額を控除するものと定めている。

そして、右資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とされているが(同法三八条一項)、同項の規定にかかわらず、個人が昭和二七年一二月三一日以前から引き続き所有していた土地等を譲渡した場合の取得費は、当該収入金額の一〇〇分の五に相当する金額(右金額がその土地等の取得に要した金額と改良費の額との合計額に満たないことが証明された場合は右合計額)と定められている(租税特別措置法(以下「措置法」という。)三一条の四第一項)。

これに対し、旧三九条一項は、相続又は遺贈による財産の取得をした個人で当該相続又は遺贈につき相続税法の規定による相続税額があるものが、当該相続の開始があった日の翌日からその相続税の申告書の提出期限の翌日以降二年を経過する日まれの間に、当該相続税額に係る課税価格の計算の基礎に算入された資産を譲渡した場合における譲渡所得に係る所得税法三三条三項の適用について、同項に規定する取得費は、当該取得費に相当する金額に当該相続税額のうち政令で定める金額を加算した金額とすると定めていた(以下、旧三九条一項の定める特例を「本件特例」という。)。

旧三九条一項は、平成六年法律第二二号により改正され、右特例の適用されるべき期間が相続税の申告書の提出期限の翌日以後三年に延長されたが、平成六年法律第二二号附則九条五項は、個人が旧三九条一項に規定する相続又は遺贈により平成六年一月一日前に取得した資産を譲渡した場合については、なお従前の例によると定めている。

二  前提となる事実(当事者間に争いがない。)

1  丙は、平成四年一二月六日、死亡し、その相続人の原告両名及び丁は、平成五年六月七日、被告に対し、右相続の開始に係る相続税について、相続財産未分割のまま申告書を提出した(以下「本件相続税の申告」という。)。

なお、原告両名が右相続の開始を知ったのは、平成四年一二月六日である。

2  原告両名及び丁は、平成五年七月一九日、被告に対し、相続財産のうち土地の評価について不動産鑑定士による鑑定評価に基づき再評価したこと等により本件相続税の申告に係る課税価格及び税額が過大であるとして、相続税の更正の請求(以下「本件更正請求<1>」という。)をした。

これに対し、被告は、平成七年九月二七日、右請求額を全額認める相続税の更正処分(以下「本件減額更正<1>」という。)をした。

3  原告両名及び丁は、本件相続税の減額更正<1>を受けて、遺産分割協議を成立させ、原告両名は、東京都世田谷区若林所在の土地一〇九・七〇平方メートル(以下「本件甲土地」という。)及び同所同番ほか所在の土地二八五・三三平方メートル(以下「本件乙土地」といい、本件甲土地と併せて「本件各土地」という。)を持分各二分の一の割合で取得した。

そして、原告両名及び丁は、同年一一月二日、相続税の更正の請求をしたのに対し、被告は、同月二八日、右請求額を全額認める相続税の減額更正処分をした。

4  原告両名は、平成八年一月二五日、A株式会社に対し、本件甲土地を二四一〇万円で、本件乙土地を一億二九四〇万円で、それぞれ売却した。

5  原告両名は、平成九年三月六日、平成八年分の所得税について期限内申告をし、平成九年六月二六日、右所得税の修正申告をしたが、右各申告において、本件各土地の譲渡所得の金額の算出に当たり本件特例を適用していた。

これに対し、被告は、同年八月二九日、本件各土地の譲渡は本件特例の適用期間を経過した後になされたから、その適用はないとして、それぞれ更正処分を行った(以下「本件各更正処分」という。)。

なお、右各申告、本件各更正処分及び不服申立ての経緯は、別表一及び別表二のとおりである。

三  本件各更正処分の根拠についての被告の主張及び原告らの認否

1  原告甲について

(一) 総所得金額 六二万〇八三七円

(争いがない。)

(二) 分離課税の長期譲渡所得の金額 六八二四万七五〇〇円

次の(1)の金額から(2)ないし(3)の金額を控除した。

(1) 収入金額 七六七五万〇〇〇〇円

本件各土地の前記売買代金合計一億五三五〇万円に原告甲の本件各土地の持分二分の一を乗じた。

(争いがない。)

(2) 取得費 三八三万七五〇〇円

措置法三一条の四第一項に基づき、右(1)の収入金額に一〇〇分の五の割合を乗じた。

(なお、原告甲は、本件特例を適用して、右金額に相続税額の加算をすべきと主張している。)

(3) 譲渡費用 三六六万五〇〇〇円

(争いがない。)

(4) 特別控除額 一〇〇万〇〇〇〇円

(争いがない。)

(三) 所得控除額の合計額 九〇万〇〇〇〇円

(争いがない。)

(四) 課税総所得金額 〇円

六二万〇八三七円(前記(一))から九〇万円(前記(三))を控除した。

(争いがない。)

(五) 課税分離長期譲渡所得金額 六七九六万八〇〇〇円

前記(四)において総所得金額から引き切れなかった所得控除額二七万九一六三円を、六八二四万七五〇〇円(前記(二))からさらに控除し、国税通則法(以下「通則法」という。)一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた。

(六) 納付すべき税額 一四九四万二〇〇〇円

次の(1)及び(2)の合計額から、(3)の金額を控除した。

(1) 課税総所得金額に対する税額 〇円

課税総所得金額が〇円のため(前記(四))、これに対する税額も〇円となる。

(争いがない。)

(2) 課税分離長期譲渡所得金額に対する税額 一四九九万二〇〇〇円

六七九六万八〇〇〇円(前記(五))に対し、平成一〇年法律第二三号による改正前の措置法三一条一項により算定した。

(3) 特別減税額(平成八年分所得税の特別減税のための臨時措置法四条) 五万〇〇〇円

(争いがない。)

2  原告乙について

(一) 総所得金額 六二万〇八三七円

(争いがない。)

(二) 分離課税の長期譲渡所得の金額 六八二四万七五〇〇円

次の(1)の金額から(2)ないし(4)の金額を控除した。

(1) 収入金額 七六七五万〇〇〇〇円

本件各土地の前記売買代金合計一億五三五〇万円に原告乙の本件各土地の持分の二分の一を乗じた。

(争いがない。)

(2) 取得費 三八三万七五〇〇円

措置法三一条の四第一項に基づき、右(1)の収入金額に一〇〇分の五の割合を乗じた。

(なお、原告乙は、本件特例を適用して、右金額に相続税額の加算をすべきと主張している。)

(3) 譲渡費用 三六六万五〇〇〇円

(争いがない。)

(4) 特別控除額 一〇〇万〇〇〇〇円

(争いがない。)

(三) 所得控除額の合計額 三八万〇〇〇〇円

(争いがない。)

(四) 課税総所得金額 二四万〇〇〇〇円

六二万〇八三七円(前記(一))から三八万(前記(三))を控除し、通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満を切り捨てた。

(争いがない。)

(五) 課税分離長期譲渡所得金額 六八二四万七〇〇〇円

六八二四万七五〇〇円(前記(二))から、通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満を切り捨てた。

(六) 納付すべき税額 一五〇三万五七〇〇円

次の(1)及び(2)の金額の合計額から、(3)の金額を控除し、通則法一一九条一項により一〇〇円未満の端数を切り捨てた。

(1) 課税総所得金額に対する税額 二万四〇〇〇円

二四万円(前記(四))に対し、所得税法八九条による税率を乗じた。

(争いがない。)

(2) 課税分離長期譲渡所得金額に対する税額 一五〇六万一七五〇円

六八二四万七〇〇〇円(前記(五))に対し、平成一〇年法律第二三号による改正前の措置法三一条一項により算定した。

(3) 特別減税額(平成八年分所得税の特別減税のための臨時措置法四条) 五万〇〇〇〇円

(争いがない。)

四  当事者双方の主張

(被告の主張)

1 本件特例の解釈について

一般に、租税法規について、その文言を離れてみだりに拡張解釈することは、租税法律主義の見地から相当でないところ、措置法は、本来課税されるべき税額を政策的な見地から特に軽減するものであるから、租税負担公平の原則に照らし、その解釈は厳格にされるべきものであり、殊に、期限という明確で形式的な基準をもって規定されている条項については、厳格な解釈が要請されるというべきである。

譲渡所得の金額の計算上控除される取得費については、所得税法三八条一項の定めのとおり、その者に係る相続税は本来含まれないところ、本件特例は、本来取得費に含まれない右相続税相当額について、租税政策上の見地から、特別の要件に該当する場合にのみ、例外的な措置として、取得費として加算することを認める旨を規定したいわゆる特例軽減措置であるから、租税負担公平の原則に照らし、厳格な解釈が要請されることは明らかである。

そして、本件特例においては、右特別の要件として、相続の開始があった日の翌日から、当該相続に係る相続税の申告書の提出期限の翌日以降二年を経過する日までの間に、当該相続税に係る課税価格の計算の基礎に算入された資産を譲渡する場合という要件が定められているのであって、右期間の始期及び終期に係る特別の規定はなく、また、右期間を経過した後に当該資産を譲渡した場合の規定は一切設けられていない。

また、本件特例は、その適用について、必ずしも土地等の譲渡が相続税の納付を目的としてされた場合に限らないとする一方で、その適用を受けることができる譲渡の期間を一定期間に限定するものであるから、右期間の制限は、形式的かつ厳格なものと解すべきである。

したがって、厳格解釈が要請される租税の優遇措置に関する規定の中でも、本件特例のように、その適用要件として期間という明確で形式的かつ厳格な基礎をもって制定されているものについては、より一層厳格な解釈がされるべきであり、他の事情を斟酌するなどして右基準を類推、拡張することは許されない。

2 本件における本件特例の適用の可否

丙が死亡したのは、平成四年一二月六日であるから、旧三九条一項が適用され、同日が本件特例における「当該相続の開始があった日」となり、また、原告らは、同日相続の開始があったことを知ったから、右相続に係る相続税の申告書の提出期限は、相続税法二七条一項、平成四年法律第一六号附則三条、通則法一〇条二項により、相続の開始があったことを知った日の翌日である同月七日から六月後の平成五年六月七日(同月六日は休日)になる。

したがって、本件各土地の各共有部分が平成四年一二月七日から平成七年六月七日までの間に譲渡されない限り、本件特例の適用の余地はないところ、右各共有部分が譲渡されたのは、右期間を経過した後の平成八年一月二五日であるから、右各譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上、本件特例を適用する余地はない。

(原告の主張)

1 原告両名及び丁が税務申告等を依頼していた税理士(以下「担当税理士」という。)は、平成五年六月七日の本件相続税の申告の際、被告の管理部門の職員(以下「管理担当職員」という。)から未分割であることの理由を問われ、本件相続開始時点の相続財産である土地の評価について、申告は財産評価基本通達に従い路線価に基づき評価しているが、路線価が時価を上回っていることが明らかであるので、早急に不動産鑑定士による鑑定評価により再評価し、更正の請求をする旨を伝えた。

また、担当税理士は、管理担当職員に対し、遺産分割協議が各相続財産の評価額、換価価値、各種税負担等を考慮して行われ、とりわけ、遺産分割の対象となる土地の評価額及び相続税額がどうなるかが意思決定の際の最大の要素となっていること等を説明し、物納手続等を速やかに遂行するため、原告らの提出する更正の請求に対し早期に処理することについて、課税部門との内部調整をしてほしい旨の要望をしたところ、管理担当職員はその旨承諾した。

2 平成五年七月一九日の本件更正請求<1>から約一年後に、被告の資産税部門の職員(以下「資産税担当職員」という。)から本件更正請求<1>に対する補足説明を求められ、担当税理士は、平成六年六月二九日、世田谷税務署に出向き、不動産鑑定評価書に関する資産税担当職員の詳細な質問事項に応答するとともに、同職員に対し、本件更正請求<1>の処理状況を尋ね、また、「本件特例が適用できなくなってしまう可能性があるので所定の期間内に処理してもらいたい。」という要望をしたところ、更正の請求件数が多く処理が間に合わない状況であり、また、過去前例がないことなので処理に戸惑っているが、そこまで時間はかからないとの回答を受けた。

さらに、同年九月に資産税担当職員から担当税理士に電話で連絡があった際、担当税理士が補足説明の件及び本件更正請求<1>に対する処理の見通しについて問うと、更正の請求件数が多く、当分の間は処理の見通しがつかないとの回答であり、その後、何度か処理状況を問い合わせたが同様の回答しか得られなかった。

3 右のとおり、本件更正請求<1>を行ってから本件減額更正<1>がされるまでの期間は二年二箇月と通常要する期間をはるかに超過している。

原告両名と丁は、相続税負担による財産及びその収益の減少、相続税納付額の合理的な確保、物納手続等に関する費用負担等の観点から、本件各土地について、本件特例を適用することを前提に売却することを検討していたが、本件減額更正<1>の遅延により、本件各土地を相続すべきか否か、また、売却すべきか否かを判断することが困難になったため、土地売却による収入金額の帰属が特定できず、また、相続税額が確定しない状態では、どの程度の規模の土地の売却が必要で、妥当かが判断できなかったため、被告が本件減額更正<1>をするまでは本件各土地の売却ができなかった。

被告が合理的期間内に本件減額更正<1>を行うべきは当然であり、本件各土地の売却が本件特例の適用期間後に行われたのは、原告両名にとって不可抗力というべきであるから、本件特例の適用を認めるのが相当である。

4 被告は、租税負担公平の原則を援用し、租税法規の拡張解釈が許されないと主張するが、右拡張解釈が許されないのは、これにより不明確な課税を行うことが国民の権利を侵すからであり、拡張解釈の制限を根拠に原告らに不利益な処分を行うことは本末転倒である。

むしろ、通常の取扱いにより本件特例の適用を受けることのできた他の国民との比較において、原告らの側で回避することができなかった本件減額更正<1>の異常な遅滞により本件特例の適用を受ける機会を奪われることになることこそが、租税負担公平の原則に反する。

したがって、被告の側に右のとおりの異常な遅滞があった本件においては、措置法を国民である原告らの有利な方向に実質的、合理的解釈を行うことにより救済することは、租税法律主義、租税負担公平の原則を侵すものではなく、むしろ、これらの原理にかなうものである。

五  争点

以上によれば、本件争点は、原告らがした本件各土地の譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上、本件特例が適用されるか否かである。

第三争点に対する判断

一  旧三九条一項は、平成六年一月一日前に相続又は遺贈による財産の取得をした個人で当該相続又は遺贈につき相続税法の規定による相続税額があるものが、当該相続税に係る課税価格の計算の基礎に算入された資産を譲渡する場合に、本件特例を適用して、当該資産の譲渡所得の計算上、相続税額を取得費に加算するためには、右譲渡が、相続の開始があった日の翌日から当該相続に係る相続税の申告書の提出期限の翌日以後二年を経過する日までの間になされたものであることを定めている。

本件においては、丙が死亡して相続が開始し、原告らが右相続の開始を知ったのは、いずれも平成四年一二月六日であるから(前記第二の二1)、本件特例が適用される期間の始期は同月七日であり、また、相続に係る相続税の申告書の提出期限は、相続税法二七条一項、平成四年度法律第一六号附則三条、通則法一〇条二項により、相続の開始があったことを知った日の翌日である平成四年一二月七日から六箇月後の平成五年六月七日(同月六日が休日に当たることは当裁判所に顕著である。)となるところ、右提出期限の翌日以後二年を経過する日の平成七年六月七日が、本件特例が適用される期間の終期となる。

しかし、原告らが本件各土地を譲渡したのは平成八年一月二五日であるから(前記第二の二4)、右譲渡は、旧三九条一項に定められた本件特例が適用されるべき期間を経過した後になされたものであることは明らかである。

二  ところで、本件においては、原告らは、右譲渡が本件特例の適用されるべき期間後になされたのは、被告が本件減額更正<1>を著しく遅滞したため、相続税額が確定しない状態で本件各土地の譲渡について判断することが困難であったためであり、原告らにとって不可抗力というべきであるから、本件特例を適用すべきであり、このような合理的解釈こそが、租税負担公平の原則にかなうものであると主張する。

確かに、前記のとおり、被告が本件減額更正<1>を行った平成七年九月二七日の時点において、原告らが本件更正請求<1>を行った平成五年七月一九日から二年二箇月が経過し、かつ、既に本件特例が適用されるべき期間の終期の平成七年六月七日を経過しているところ、原告らが主張するように、相続人らが、減額更正請求の結果、どのように相続税額が確定するかを踏まえて、譲渡すべき相続財産の範囲を決定することも、実際上はあり得るところであり、本件減額更正<1>が早期に行われていれば、原告らは、右結果を踏まえて、本件特例の適用されるべき期間内に本件各土地を譲渡することができた可能性を否定することはできない。

しかしながら、減額更正請求がどのように確定するかということと相続人が他に譲渡する相続財産の範囲をどのように決定するかということは、法律上関連付けられているものではなく、その関係は、専ら事実上の問題にとどまるものであり、他方、措置法は、本来課されるべき税額を政策的な見地から特に軽減するものであるから、租税負担公平の原則に照らし、その解釈は厳格にされるべきものであって、殊に、期限という明確で形式的な基準をもって規定されている条項については、厳格な要請されるというべきであり、右条項の文言を離れて、みだりに実質的妥当性や個別事情を考慮して、拡張解釈ないし類推解釈をすることは許されない。

そして、旧三九条一項は、譲渡所得の算定について、所得税法三三条三項の定めに対する課税の特例軽減措置を定めたものであるところ、本件特例の適用されるべき期間を、相続の開始があった日の翌日から、相続税の申告書の提出期限の翌日二年を経過する日までの間と明確に限定しており、納税者が右期間を徒過した場合に、格別の事情を参酌して本件特例の適用を認めるべきことを定めた救済規定を設けていないことからすれば、右期間については、その徒過の事情いかんにかかわらず、例外的な扱いを認めることは予定されていないものと解すべきである。

したがって、原告らが本件特例の適用されるべき期間を徒過した理由が、原告ら主張のとおり、被告の本件減額更正<1>の遅滞によるものであるとしても、右のような事由を個別に考慮して右期間の制限の例外を認めて、本件特例を適用することは許さないと解すべきである。

三  以上のとおり、原告らがした本件各土地の譲渡に係る譲渡所得の金額の計算において、本件特例を適用することは許されないから、相続税額の取得費加算を認めることはできない。

そして、前記争いがない金額を基に、原告らの平成八年分の納付すべき所得税額を算定すると、前記第二の三の1(六)及び同2(六)のとおり、本件各更正処分に係る原告らの納付すべき税額と同額となるから、本件各更正処分はいずれも適法である。

四  よって、原告らの請求はいずれも理由がないから、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 市村陽典 裁判官 阪本勝 裁判官 村松英雄)

別表一

本件課税処分等の経緯(原告 甲)

<省略>

別表二

本件課税処分等の経緯(原告 乙)

<省略>

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